Don’t laugh at my romance

人のセックスを笑うな」を観てきた。
結構宣伝をしていたのにも関わらず、東京では渋谷の1館のみ。しかも、見に行けそうな夜の上映は、最初の一週間のみ。これを逃したら、映画館では観られないと思い立ち、前日ネットで予約。
事前に口コミ評をみてみると、「長い」「単調」ということだったので、夜9時開始に備えて、ちゃんと夕食をとっておこうと思っていたのだが、いつものとおり、会社からぎりぎり駆けつけることになってしまった。しかたないので、近くのコンビニで、おにぎりとお茶を買って、映画館のあるフロアに向かう。
クワイエットルーム...」を同じような時間帯で観たときは、閑散としていたので、それを想像していたが、すごい人ごみでびっくり。さすが渋谷。まだまだ宵の口ということか。客層は大学生ぐらいが中心か。カップル、友人同士、女一人と、さまざまだが、サラリーマン風男一人は、ごくわずか。女一人は松井ケンイチファンだろう。ほぼ満員。当日でも座れないことは無いが、結構並んでいたし、一人で観るときには、通路側がいいので、予約していってよかった。
さて、映画の内容だが、長く単調であることを覚悟していたため、特に気にならなかった。年の差のある不倫カップルが、世間の風当たりを受けながら、かっこわるいけど純愛を貫くといったストーリーを予想していたが、そういうドラマチックな展開は全くなかった。どこかの地方(埼玉、群馬あたり)で、うだうだとした話が続くという感じ。
で、肝心の蒼井優であるが、かわいいのは今更言うまでもないが、役にとくに魅力がある訳でもなかった。良かった点は、結構出番があったので、じっくり眺められた点であろうか。眺めながら、蒼井優の魅力というのはいったいどこにあるのか、じっくり考えることができた。
よく、演技派、カメレオン女優というような評論がされるが、演技がもっとうまい女優はいるから、魅力はどこか他にあるはず、などとぼんやり考えていて、ふと分かった。
蒼井優の魅力は、美しい立ち居振る舞いにあり。
それは、蒼井優の評価をあげた作品を並べてみても分かる。「花とアリス」のバレエシーン、「フラワーガールズ」の踊り(自分が好きなのは、クライマックスの舞台よりも、母親が眺めているところで一人練習場で踊るシーン。あそこには、ハッとする美しさがあった)、「蟲師」で虫を扱うシーン(新体操のリボンのような動き)、「ハチミツとクローバー」の絵を描くシーン(特に、2階でキャンパスを黒を円を描くように塗っているところ)。これらのシーンは、長い手足が実に美しく動き、刺すような輝くまなざしも美しい。それまでの、地味で、パッとしない女性の演技は、それらの輝きに向けての助走のようにみえる。そうすることで蒼井優の魅力を最大化できることを示した、岩井俊二は、やはりすごいと思う。
しかし、最近の蒼井優の出演作は、そこが欠けてしまっている。つまり、助走で終わってしまっている。なお、モテモテで、快活、有能といった演技がどれだかはまるのかは分からない。(そういう役は、「鉄人28号」の才女役でしか観ていないから。(あの映画は批評の対象とするには、あまりに子供向け))
TVドラマの看護婦役、今回の「人のセックス..」、次回作の「百万円と苦虫女」にしても、そのパッとしない女性の役であり、蒼井優の魅力を最大限に引き出すものではなく、そういう役を普通の女優がやると魅力が無いため、蒼井優に演じさせることにより、映画として成立させてようとしているのではないか。つまり、蒼井優の魅力に助けてもらおうとしている。それが、大女優の証と言えばそうなのかもしれないが。
でも、私が観たいのは、やっぱり、蒼井優のハッとした美しさであり、巧みな演技はあくまでも、それを引き出す手段であってほしい。
蜷川オセロのデスデモーナでも、舞台でしかも、中世の美しいドレスを着せておきながら、その美しい身のこなしを生かす演出がもっとなされていれば、より良かったのにと思う。


映画「人のセックスを笑うな」オリジナルサウンドトラック