岩井俊二

ところで岩井俊二について書きたくなった。
私にとっての代表作は「スワローテイル」であった(「花とアリス」を見るまでは)。「YEN−TOWN BAND」の楽曲とともに一種のブームとなったが、映画自体、今でも語り継がれると言うほどの評価は得られていない気がする。当時は(といっても10年ほど前だが)、バブル、円高の余韻がありで、アジアから日本に人が押し寄せてきているという世情の延長戦としての近未来が描かれていた。実際の日本はそれから長い不況に苦しみ、中国が急速に台頭してくるという、かなり違う未来となったわけだが。
「ラブレター」は、韓国でもすごい人気だったそうだ。私は正直あまりぴんとこなかった。
「リリィシュシュのすべて」は、評価が高く、蒼井優の代表作としてもよく挙げられるが、痛すぎるストーリーに目を背けたくなる。
やはり1位は「花とアリス」。レンタルして見たが気に入ってしまい、DVD(2枚組)とCDまで買ってしまった。キットカットのネット上のショートムービーは見ていたが、当時は、鈴木杏しか知らなかった。鈴木杏については、金城武と競演した「リターナー」に出ていたころは、天才子役と呼ばれていて、少年のような中性的な魅力があって、すごく好きだった。映画自体も、ハリウッド映画の(良識ある)パクリが目に付いたが、、SFX、アクションともに、日本のSF映画としては、水準の高いものであった。特に、「擬態」といって、戦闘機やジャンボ機が変形していく描写は新鮮だった。あの「トランスフォーマー」は、これをパクってないか?「トランスフォーマー」のアニメの方が早いだろうが、CG化したときの映像効果としては、「リターナー」の方が先ではないのか。という指摘をだれもしないところを見ると、的はずれか。ところで、「リターナー」の監督は、今や「ALWAYS」でメジャーになったなあ。おそらく、昭和の再現のために、その特撮技術に白羽の矢が立ったのだろうが、人間もきちんと描ける、特に、子供の扱いがうまいところも、買われたのだろう。オタクっぽい監督がメジャーになるところは、「死霊のはらわた」から「スパイダーマン」へのサム・ライミを思い起こされる。稼げる監督になったのだから、是非、SF映画をまたやって欲しい。
話が大幅にずれたが、「花とアリス」は、蒼井優が、芸能事務所にスカウトされる程度にはかわいいけど、特別な魅力を放つほどではない等身大の高校生アリスを演じる。アリスは、怪我をしたり、オーディションをことごとく落ちたり、友達の変な嘘につきあわされたり、男子に対して気持ちがはっきりしなかったり、離婚した両親それぞれに対して素直になれなかったり、あまりぱっとしない。それが、最後のバレエのシーンで、神々しいぐらいの魅力を一気に発揮する。あのシーンは日本映画史に残る名シーンだと思う。そこれうけた感覚は、「ニューシネマパラダイス」の最後に、キスシーンだけを集めたフィルムが流れた時の、なんだかわからないけども、涙が止まらなくなった感覚に似ていた。それは、劇的な展開があったというわけでもないのに、映画が始まって2時間の間のいろいろなシーンの積み重ねにより、自分で気付かなかった感情が、魔法のスイッチが入ることで一気に高まるという、不思議な体験だった。「花とアリス」のバレエのシーンも、それまで、見え隠れしていた蒼井優の魅力を、一気に解き放つような効果を持っていた。音楽(これも岩井俊二作曲)もよかった。映像とあまりにシンクロしていたので、映像と音楽を同時に作りあげていったのじゃないだろうか。なぜか、月曜日にBSで放映していた。何度もDVDを見ているくせに、やはり見てしまった。
翌日、「昨日BSで『花とアリス』みた」「うん、見た見た」という会話がどこかでなされたのだろうか。高崎線あたりで。
花とアリス 特別版 [DVD]オリジナルサウンドトラック H&A