クワイエットルームにようこそ

ashiwaza2007-11-12

そろそろ見ないと上映が終わってしまうということで、蒼井優出演の「クワイエットルームにようこそ」を見に行った。上映が終わってもすぐにDVDが出るだろうから見逃す心配は全くないが、蒼井優を映画館で見たことがなかったので、今回こそはということで。
有楽町駅の近くの映画館で、21時にスタートというのをネットで見て、残業帰りに、飯も食べずに直行。したのはいいけど、映画館が見つからない。マリオンとJRの線路の間にあるはずだが、このあたりは、ITOCIAがついこの間オープンしたところで、まるで勝手がわからない。うろうろしていたら、そのできたばかりのビルの上に看板を見つけた。なるほど、映画館自体も新しかったのか。
エレベーターで上って入ると、ミニシアターのシネコンという感じで、スクリーンは4つぐらい。どれも、若干マイナーな作品。「クワイエット...」が一番メジャーなぐらい。普通の月曜日の夜9時だから、お客さんはごく少ない。切符を買おうとすると、全席指定と言うことで、今ならどこでもOK。入る前に、さすがに腹ぺこで、中にある店で、サンドイッチもどきを買って入る。
観客は全部で10人ぐらいか。ちょっとホームレス風の様子の怪しい中年男、後から入ってきてやたらと足おとが力強いビジネスマン風の男、上映中やたら大受けしている男とその彼女とか。映画が終わるのが11時過ぎ、でこんな時間に精神病の映画を見るんだから、ここにいる人間自体なんかずれているのだろう。
予告編が結構長い。この時間だからはしょってもいいと思うが。でも、なかなか良さそうな映画が多い。ミニシアター系はこの夏に一度渋谷に行ったきり。今後はちょくちょく来たい。
映画が始まる。ストーリーは、あちこちで紹介されていたから、何となく知っていたが、タイトルにあるクワイエットルームが、精神病棟自体ではなく、その中の拘束室であることは初めて知った。
蒼井優は、そのクワイエットルームの中にいる内田有紀をのぞき込むところで登場。内田有紀と並ぶと、頭が大きく見える。頭小さいはずだが、ドレッドヘアのせいか、それとも、内田有紀がよほど小さいのか。役どころは、壊れている病人の中では、唯一まとも(と自分で思っているし、見かけもそう)で、突然入院させられて混乱状態の内田有紀に、ここでの身の処し方を教えるというもの。写真で見ていたとおり、すごくやせている。ゴシック調の服を着ているからまだいいが、軽装したら、どう見えちゃったんだろうかと心配になるぐらい。実はそれほど出番が長いわけではない。群像劇といっても、ほとんど内田有紀ワンマンショー。出演時間が同じぐらいの大竹しのぶが撮影4日間と書いてあったから、蒼井優は、せいぜい撮影期間1週間ぐらいだったのでは。そのために、あそこまでダイエットしたというのは、役作りのためとはいえ、すごいことだと思う。結構思いこみが強いんだろうか。まあ、いままで少女役が多かったところ、化粧品のCMも含め、今後大人の女性のイメージに移行しようということで、一度体を引き締めたかったのかもしれない。確かに、ダイエット後、体重が戻った後も、以前より女っぽくなった気がする。
蒼井優の演技だが、みどころは、病棟内の無象無象から守ってやっていた内田有紀が自立したと時に見せるある種の嫉妬と、自分が食べられない理由があきらかに異常であることに自分が気付いていないことが、観客にわかるときの演技。ちょっと大げさに言えば、見た目はインテリなレクター博士が、その異常性を観客に見せつけた時の演技。残念ながら、蒼井優のその場面には、背筋を凍らせるような演技というか演出が足りなかったと思う。まあ、この映画はスリラーではないんだから、このぐらいで良かったのかな。
あと、オセローで共演していた、馬淵えりかが、頭に火をつけるという病人役で出ていた。今回はずいぶん印象が違って、ヤンキー娘風。オセローでもいい演技していたから、今後も期待できそうだ。
自分なりにこの映画の受け止め方を解釈すると、仕事、結婚、出産、老いた親というのは、30歳を過ぎる女性なら皆が抱える問題であり、そのプレッシャーに押しつぶされる前に、1週間でもいいから、そこから逃げるんじゃなくて、それを抱えている自分と冷静に対峙し、そこから少しずつでも前向きに歩き始めたらどうか、という提案ではないだろうか。それが、クワイエットルームという日常から遮断された空間が象徴しているものではないのか。怖いのが、それが単なる現実逃避になってしまうと、そこから永遠に抜けられないし、現実に戻ってもまたすぐに舞い戻ってしまう。では、クワイエットルームから脱出できた内田有紀演じる主人公と、できない他の病人たちとの差は何だったのだろうか。医者も看護婦も病人仲間も家族も友達も、優しくしてくれても、問題を解決してくれるわけではない。自分で気付いて、自分で立ち向っていく勇気とエネルギーが残っていたかどうかではなかったのだろうか。
内田有紀の演技はよかったが、観客に対して、内田有紀本人のアイドルから結婚、離婚を経て今に至ったという背景が、その裏付けとして働いていたことは否定できないだろう。
蒼井優を初めて映画館で見たわけだが、やっぱ主演映画じゃないと満足できないな。「百万円と苦虫女」まだ先だなあ。